週間ダイヤモンド掲載記事

森田恒幸

週間ダイアモンド掲載記事(2002/12/28,2003/01/04 新春合併号

地球温暖化対策が社会の発展の方向性を変える可能性がある

二〇〇三年は、いよいよ京都議定書が発効し、本格的な地球温暖化対策が求められますね。

地球温暖化自体はもう防ぎえない。いかに温暖化のレベルを低くするかが現在の課題だ。なんとか一度から一・五度くらいに抑えれば、カタストロフィックな現象は起きないと考えられる。そのためには一〇〇年必要。地球温暖化対策は一世紀にわたる世界規模の事業だ。ということは、温暖化対策は、社会経済の発展の方向そのものを変える可能性がある。
対策では、テクノロジーが非常に重要な解決の要因となる。さまざまな技術を総合的に導入して、いかにうまく社会にとけ込ませていくかが最も重要になる。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)では、将来の社会について、六つのシナリオ(下図)を分析していますね。

地球温暖化対策の日本のGDPへの影響

IPCCでは、なんとか気候を安定化させるために、大気中の二酸化炭素濃度を一定レベルに安定化させるシナリオを描けるかどうかを検討した。その基礎として、今後一〇〇年の人類の経済社会の発展パターンをいくつか選び分析した。
最も二酸化炭素の排出量が多くなるのは、高度経済成長かつ化石燃料をどんどん使う社会。二酸化炭素が大量に出る。これを、たとえば、約一・五から二度くらい温度が上がる水準である四五〇PPmまで下げるのは、非常に厳しい。
一方、循環型社会のように、温暖化対策をしなくても、今世紀半ばには二酸化炭素排出量が減っていく社会も描ける。経済は国際的な規模で発展していくが、非常に初期の段階から、徹底的に効率的な技術に投資をし、さらにリサイクルを社会のシステムに導入していくというシナリオだ。これなら、対策は楽になる。シナリオによって対策の仕方も変わってくる。温暖化を防ぎやすいのは、一っは、原子力やバイオマスなど、非常に高度な技術を使った高成長社会。それから循環型社会と、地域共存型社会だ。この三っのどれかに経済発展を合わせていくと、温暖化は防ぎやすい。しかし、発展の方向は、社会全体で総合的に選ばれるものだ。社会、経済をどう発展させていくかという政策とうまく連動して温暖化対策を進めるべきだ。

社会の発展の方向性による温暖化対策の難易度の違い

温暖化対策のコストはどれくらいかかるのでしょうか。

化石燃料依存型高成長社会だと、最大GDPの四%くらいの損失が生じる。循環型社会では、ほとんどコストがかからない道も選べる。 日本については、最悪の場合のコストを計算すると、最大で経済規模の○・五%ぐらい、二兆五〇〇〇億円ぐらいの損失が出る。
これを緩和するシナリオとしては、一番は環境産業の振興。環境産業が生産を伸ばしてくれば、国レベルではGDPは回復してくる。ただし、各企業のレベルでいうと勝ち負けがはっきりつくことになる。対策による負担の大きい素材産業は、環境ビジネスを取り込んでしまえばいい。実際、そういう動きも進んでいる。
次に、温暖化対策に有効な先端的技術に対する投資に経済的効果が表れる。最近よく言われるのは、ゼロエミッションテクノロジー。情報産業、バイオ産業、ナノテクノロジーにも大きな期待がある。 最後に、消費のシフト。消費者が環境にいいものだと少しぐらい高くても支払うようになれば、環境負荷が減って、余裕が出てくる。いい例がハイブリッドカーだ。

炭素税などの経済政簑による対策も必要になりますか。

経済的なインセンティブの与え方も、企業が実質的に払っていくコストをできるだけ低めて、なおかつ効果を高めるような洗練された工夫が最近、出始めている。たとえば、炭素税だけれども、奨励する水準よりも多く二酸化炭素を削減した場合には急激に税額を下げてしまう、だけど怠けている企業からは高い税金をもらうという方式。そうすれば企業の自主的取組みとも整合性がある。私たちはそういう提案をし続けてきたが、イギリスが導入を決め、日本でも一気に関心が高まってきた。

今後、中国をはじめアジアの動向が重要という分析もありますね。

さらに幅広く、京都護疋書以後へ向けて、次の約束期問の議論が始まっている。温室効果ガス削減を強制されていない多くの国が温暖化対策に取り組むには、それで浮いた分を先進国に売るという経済的インセンティブが必要だ。ところがアメリカが抜けて、その価格がつり上がらない。アメリカが入ってきて国際排出権取引の価格が上がり、さらに先進国の目標をさらに厳しくして初めて、強制力のない国が動く。それを先進国は受け入れるか、という問題だ。これは、かなり厳しい議論になるだろう。

もどる